2011年4月25日月曜日

『想いを繋いで』

 荒野をゆく旅人がいた。
 もしかしたら、と。確証のない希望にすがり、体躯に見合わぬ荷物を背負って、どこまでも、どこまでも。
 広漠とした世界。それでも誰かに会えるかも知れないと、痛む足を引きずって。

 進んでいるのか、止まっているのか、判然としなくなったのは何時のことだったろうか。
 緩慢な歩みはついに途切れ、やがて自然に足は崩れ、旅人は地に伏した。
 横たわる瞳には悔しさが滲む。
 このまま誰にも会えずに終わるのかなあ、と独りごちる。

 そんな彼に、黒い影が被さった。
 顔を上げればそこには化物。黒く染まった、異形のヒト。
 瞳も鼻も、耳もなく。黒いヒトガタに、真っ赤な口だけが裂け目のように走っている。
 ヒト二人分はあろうかという巨大なソレは、大きく口を開いて、旅人に迫った。

 刹那、息を飲み―――一瞬遅れて、理解が訪れる。
 
「ありがとう。連れて行ってくれるんだね」

 赤い空洞に何を視たのか。旅人は、微笑みを浮かべながら、化物の腹に消えていった。
 飲み込んだ分だけ大きくなる、その体躯。膨らんだのは、旅人の分。
 化物はやがて、旅人の荷物を抱え、歩き出した。






 ―――このセカイで、もしも誰かと会えるとしたら。
 ―――僕はもう駄目だろう。でも、希望を確かめることさえ出来れば、僕は。

 



 原初の願い。
 邂逅を望んだ、少年の想い。
 食らって、呑んで、また食らって。
 何人もの想いを腹に、化物はまた、希望を探す旅を続ける。

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