荒野をゆく旅人がいた。
もしかしたら、と。確証のない希望にすがり、体躯に見合わぬ荷物を背負って、どこまでも、どこまでも。
広漠とした世界。それでも誰かに会えるかも知れないと、痛む足を引きずって。
進んでいるのか、止まっているのか、判然としなくなったのは何時のことだったろうか。
緩慢な歩みはついに途切れ、やがて自然に足は崩れ、旅人は地に伏した。
横たわる瞳には悔しさが滲む。
このまま誰にも会えずに終わるのかなあ、と独りごちる。
そんな彼に、黒い影が被さった。
顔を上げればそこには化物。黒く染まった、異形のヒト。
瞳も鼻も、耳もなく。黒いヒトガタに、真っ赤な口だけが裂け目のように走っている。
ヒト二人分はあろうかという巨大なソレは、大きく口を開いて、旅人に迫った。
刹那、息を飲み―――一瞬遅れて、理解が訪れる。
「ありがとう。連れて行ってくれるんだね」
赤い空洞に何を視たのか。旅人は、微笑みを浮かべながら、化物の腹に消えていった。
飲み込んだ分だけ大きくなる、その体躯。膨らんだのは、旅人の分。
化物はやがて、旅人の荷物を抱え、歩き出した。
―――このセカイで、もしも誰かと会えるとしたら。
―――僕はもう駄目だろう。でも、希望を確かめることさえ出来れば、僕は。
原初の願い。
邂逅を望んだ、少年の想い。
食らって、呑んで、また食らって。
何人もの想いを腹に、化物はまた、希望を探す旅を続ける。
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