2011年4月5日火曜日

『あなたも私もポッキー』

「あなたも私も、ポッキーなのね」

 絶望的な台詞にも、しかし涙声の混じる様子はない。僕らの体に、涙腺は無くなってしまったのだから。
 
「ああ。もうこの地球上には、人間はいない」

 僅かに揺らぐ、彼女の真っ直ぐな―――一切の凹凸のない体躯。表情すらも失ってしまったこんな体でも、その身じろぎだけで彼女の悲しみが読み取れたことに、僅かな安堵を覚えた。僕はこんな姿になっても、ヒトであったことに縋り付こうとしている。
 だが、抱きしめて安心させてあげることは出来ないのだ。物理的に、もう二度と。肉体を介した交感がここまで制限されていて、果たしてヒトと呼べるのか。
 自信はなかった。
 
「行こう。ここにもじきに、トッポが来る」

 彼らと遭遇してしまえば、戦闘は避けられない。

「……なぜ、争わないといけないのかしら。私たち、同じプレッツェルなのに」

「人間だった頃にだって諍いはあったさ。プレッツェルになったから無くなるはずだなんてことは、言えない」

 チョコが内側か外側か。奇しくも人種の肌の違いのようではないか―――と、笑えないジョークを口に出そうとして、やめた。

0 件のコメント:

コメントを投稿