2011年11月30日水曜日

『せかいにひとつだけの』

「なんでも願いを叶えてくれるんだね?」

「そうね、わたしの自由意志で拒否したくならない範囲でなら、なんでも。『自害しろ』とか、そういうのはお断りよ」

「なら、僕を世界で並ぶもののない作家にしてくれないか」

「いいわよ」

 目を輝かす少年に、少女は軽く微笑みを向けると、挨拶でもするように片手を挙げ、すぐにすとんと落とした。それだけで充分だった。
 その瞬間、少年を除いた人は絶えた。
 
「これで、あなたの物語を外から読む者はもういない。たった一つの物語、異本も認めぬ物語―――それが、あなた」

 告げる言葉は、どこまでも優しい響き。
 
「書きなさい。書くために書きなさい。生かしてあげる。書くために必要なことだけは、何でもしてあげる」

 呪詛にも似た祝福を聞いて、少年の顔がほころんだ。

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