「なんでも願いを叶えてくれるんだね?」
「そうね、わたしの自由意志で拒否したくならない範囲でなら、なんでも。『自害しろ』とか、そういうのはお断りよ」
「なら、僕を世界で並ぶもののない作家にしてくれないか」
「いいわよ」
目を輝かす少年に、少女は軽く微笑みを向けると、挨拶でもするように片手を挙げ、すぐにすとんと落とした。それだけで充分だった。
その瞬間、少年を除いた人は絶えた。
「これで、あなたの物語を外から読む者はもういない。たった一つの物語、異本も認めぬ物語―――それが、あなた」
告げる言葉は、どこまでも優しい響き。
「書きなさい。書くために書きなさい。生かしてあげる。書くために必要なことだけは、何でもしてあげる」
呪詛にも似た祝福を聞いて、少年の顔がほころんだ。
0 件のコメント:
コメントを投稿